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「矯正治療をしたいけれど、健康な歯を抜くのは嫌だ」と思う方が多いでしょう。抜歯の代わりに、歯を並べるスペースを作る方法の一つが「奥歯の遠心移動」です。遠心移動することで、矯正治療に伴う抜歯を避けられるかもしれません。透明なマウスピースを装着して歯を動かすインビザラインは、遠心移動が得意な矯正方法です。
今回は、インビザラインにおける遠心移動の特徴や、遠心移動すべき歯並びをご紹介します。
インビザライン治療で行う遠心移動とは
遠心移動の特徴と移動のための条件は、以下のとおりです。
インビザラインにおける遠心移動
インビザラインは、奥歯の遠心移動が得意です。遠心移動とは、歯を後ろに移動させることで、前方の歯並びにすき間を作るために行われます。
インビザラインは、マウスピースを使って歯列全体に力をかけます。歯の根から頭まで、歯全体を平行に移動させる歯体移動によって歯を動かすのです。歯体移動では、歯の根ごと位置を変えられるため、奥歯の位置を調整できます。
ワイヤー矯正では、歯を動かすために奥歯を固定源にする場合が多く、通常の装置では奥歯の位置を変えられません。奥歯を移動するには、専用の装置を併用して奥歯に力を加える必要があります。
遠心移動は、矯正治療において重要な歯のスペース作りに大きな影響を与えます。ワイヤー矯正では抜歯が必要といわれる歯並びでも、インビザラインなら抜歯をせずに治療できる可能性があるのです。
遠心移動の条件
「抜歯をしなくていいならインビザラインで矯正したい」と、多くの方が思うでしょう。
しかし、すべての歯並びにおいて奥歯の遠心移動ができるわけではありません。奥歯を遠心移動させるには、以下の条件を満たす必要があります。
遠心移動で必要なスペースを確保できる
遠心移動によって作ったスペースだけで、歯をきれいに並べられなければいけません。
遠心移動で得られるスペースは、左右合わせて3~5mm程度です。日本人は顎が小さいため、2~3mmしかスペースを確保できないケースも多いです。遠心移動だけでスペースを確保できない場合は、IPRという歯の側面を削る方法を併用します。
しかし、歯への影響がない範囲で削るため、前歯全体を削って3mm、奥歯全体まで削って5mm程度のすき間しか作れません。
遠心移動とIPRを併用してもスペースが不足する場合は、抜歯する必要があるでしょう。抜歯が必要な歯並びを無理に非抜歯で治療すると、歯列のアーチが広がって口元が膨らんだような歯並びになるおそれがあります。
歯並びを整えるためのスペースがどのくらい足りていないのか、矯正前によく検査することが重要です。
奥歯を移動するスペースがある
顎の骨の状態は人によって異なるため、奥歯の後ろにどれだけのスペースがあるかも個人差があります。
歯を移動するには、支える顎の骨が必要です。そのため、奥歯の後方の顎の骨が短い場合は、十分に移動できない場合があります。
また、親知らずがあると移動できません。遠心移動するときは、必ず事前にレントゲン撮影を行い、埋まっている親知らずがないか確認する必要があります。
顎間ゴムを指示どおりに使用できる
顎間ゴムが指示どおりに使用できないと、治療の失敗につながるでしょう。
奥歯を移動させる際は、上と下の装置それぞれにゴムをかけます。
しかし、顎間ゴムは毎日患者様自身で取り換える必要があります。歯科医師の指示どおりに装着しないと、矯正力が不足して奥歯が動きません。
遠心移動を成功させるには、患者様の協力が必要不可欠といえるでしょう。
インビザライン治療で遠心移動を行うメリット・デメリット
遠心移動は魅力的な方法ですが、メリットだけでなくデメリットもあります。メリット・デメリットを考慮して、治療方法を決定しましょう。
メリット
遠心移動の一番のメリットは、抜歯せずに矯正治療を進められることです。
歯並びが悪くなる原因として、顎が小さいことで歯が並ぶスペースが不足していることが挙げられます。歯を並べるためスペースを作る方法として、昔から行われてきたのが「抜歯」です。
矯正治療で抜歯が必要な場合、上下左右4本の小臼歯を抜くケースが多いでしょう。大きな虫歯があるなどが原因で、ほかの歯を抜歯することもあります。
健康な歯を抜くことに抵抗がある方は多いです。インビザラインで治療すれば、従来なら抜歯が必要な症例でも、歯を抜くことなく治療できるかもしれません。
デメリット
遠心移動は、奥歯から手前にかけて一本ずつ後方に歯を動かすため、治療に時間がかかります。
インビザラインで歯が動く距離は1か月におよそ1mmです。奥歯を後方に動かして、前歯を調整できるようになるまでは1年ほどかかるのです。
また、遠心移動に失敗した場合は治療を一からやり直す必要があり、さらに治療期間が延びるでしょう。途中で失敗すると治療計画を立て直し、IPRや抜歯を行う可能性があります。
インビザライン治療で遠心移動が必要な歯並び
遠心移動は、歯が並ぶスペースを作るための方法です。インビザラインで治療する際に、遠心移動が必要な歯並びをご紹介します。
出っ歯(上顎前突)
出っ歯は、上の前歯が前方に突出している歯並びです。顎の骨格のバランスや、歯の大きさなどによる生まれつきの原因や、指しゃぶりなどの日常的な癖が原因で起こります。
上の歯列を全体的に後方に下げるために、遠心移動が必要です。重度の出っ歯の場合、奥歯の遠心移動だけでは十分にスペースが確保できず抜歯が必要になるケースがあります。
叢生
叢生は、歯がガタガタで前後左右に歯が出る・引っ込むなどしている歯並びです。歯が正しい位置に生えなかったことや、歯や顎の大きさによって歯が並ぶスペースが不足することで起こります。
歯列のがたつきをなくして一列に並べるために、奥歯の遠心移動をするケースがあります。特に、前歯の数本だけ歯が重なっている場合や、ねじれている場合には、遠心移動が有効です。
受け口(反対咬合)
受け口は、下の歯が上の歯より前方に出ている歯並びです。遺伝による骨格の問題や、頬杖をつく、唇を吸う・下顎を前方に突き出すなどの口腔習癖などが原因で起こります。
軽度の受け口では、下の歯列を奥歯の遠心移動で後方に下げることが可能です。顎の骨格の問題がある場合は、通常の歯の矯正だけでは口元の印象を変えることは難しいです。そのため、顎の骨を切る外科手術を併用して治療するケースもあります。
遠心移動でスペースを確保できない場合の対処法
遠心移動で確保できるスペースには限りがあります。また、同じ治療を行っても、確保できるスペースは顎の骨や歯並びに影響されるため、個人差があるでしょう。
矯正前の検査でどれだけのスペースが必要か確認し、どの方法でどのくらいスペースを作るかを判断することが重要です。遠心移動でスペースが確保できない場合の対処法をご紹介します。
IPR
IPRは、歯の両側を削ってスペースを作る方法です。
歯がしみるなどの影響が出ないようにするため、1本あたり0.5mm程度しか削りません。前歯全体を削ると3mm、奥歯まですべて削ると5mm程度のスペースをつくることが可能です。
しかし、IPRでは遠心移動と同程度のスペースしか確保できません。そのため、ほかの方法と組み合わせることが多いです。
側方拡大
側方拡大は、歯列のアーチを横に広げて歯を並べるスペースを確保する方法です。
横に1mm広げると、0.7mm程度のスペースを作れます。専用の装置を用いて歯列を横に広げます。
しかし、成長期のこどもに比べると、大人はあまり歯列を広げられません。広げすぎると顎の骨から歯が飛び出すリスクがあるため、慎重に進める必要があります。
抜歯
最もスペースを作ることができるのが、抜歯です。
上下左右4本の小臼歯を抜くケースが多く、1本あたりおよそ7mmのスペースを作れます。
歯並びの乱れが重度の場合は、歯をきれいに並べるために多くのスペースが必要となります。中度~重度の歯列不正では、抜歯以外の方法だと十分なスペースを確保できない場合が多いです。抜歯をせずに矯正すると、理想の歯並びや噛み合わせにならないおそれがあります。
まとめ
インビザラインにおける奥歯の遠心移動は、奥歯を後ろに移動させて歯を並べるスペースを作るための方法です。奥歯の遠心移動が得意なインビザラインで治療することで、本来抜歯が必要な歯並びでも抜歯せずに矯正できる可能性があります。
ただし、遠心移動で作れるスペースには個人差があります。重度の歯列不正の場合、遠心移動だけではきれいに歯が並ばないケースも多いです。
自分の歯並びを整えるにはどのくらいのスペースが必要で、どの方法が適切なのかは、歯科医師に確認しましょう。