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インビザラインで治療できない症例は、重度の歯周病や叢生(そうせい)や骨格に問題がある場合です。適応が難しいと判断された場合は、ワイヤー矯正に変更したりインビザラインと併用したりする方法があります。
この記事では、インビザラインで治療できない理由と代わりとなる治療法について詳しく解説します。
インビザラインで治療できない症例とは?
インビザラインは以下の3つの動きを苦手とします。
・歯を平行に移動させる
・歯を回転させる
・歯を歯茎へ押し上げる
上記の動きを必要とする症例は、インビザラインで治療できない可能性が高いです。インビザラインでは治療できないと判断されることが多い症例を以下にご紹介します。
重度の歯周病
重度の歯周病は、歯肉の炎症が進行して顎の骨(歯槽骨)が溶けてしまいます。骨が溶けると歯の根元を支えることができなくなるため、最終的に歯が抜け落ちます。腫れが少ない場合や出血が見られない場合は、骨まで進行している可能性は低く、軽度であることが多いです。
顎の骨が溶けると歯がグラグラと不安定な状態になり、インビザラインによって力が加わると歯が抜ける可能性があります。インビザラインだけでなく、ほかの矯正方法にも当てはまり、歯周病が進行している場合は歯科矯正ができません。歯周病がある場合は、完治させてから治療を始めます。
重度の叢生
叢生とは、歯が一列ではなくガタガタに並んでいる状態のことをいいます。八重歯も叢生の一種です。
歯の重なりが多いと、インビザラインでは治療できない場合があります。顎が小さかったり顎に比べて歯が大きかったりすることが原因であり、幼少期の顎の発達が大きく影響しています。歯が本来の位置から大きくずれていると、その分動かす範囲が大きくなります。歯と歯が重なっている場合、歯を平行移動させて位置調整を行います。インビザラインは、ワイヤー矯正に比べて歯を動かせる範囲が小さいため、歯のずれが大きい場合はインビザラインで治療できないと判断されることが多いです。
また、叢生が重度の場合は、治療するにあたって歯を移動させるスペースを確保する必要があり、事前に抜歯をすることがあります。歯を抜くとスペースができますが、歯根ごと移動させる必要があり、動かす距離も長くなります。平行移動が苦手なうえに、空いたスペースを埋めるだけで相当の時間を要することになるため、歯が大きくずれている場合はインビザラインでは治療できないことがほとんどです。
骨格に問題がある場合
骨格に問題がある場合は、歯並びをよくするだけでは改善されません。骨格そのものにアプローチする必要があるので、外科手術が適応されます。
歯並びではなく骨格に問題がある症例は、以下の3つです。
・重度の出っ歯
・重度の受け口
・過蓋咬合(かがいこうごう)
それぞれ詳しく解説します。
重度の出っ歯
出っ歯とは、上顎が下顎よりも前に出ている状態のことをいいます。専門用語で、上顎前突(じょうがくぜんとつ)と呼びます。
出っ歯は、顎が成長する段階で、下顎に比べて上顎が成長しすぎることが原因です。上顎の発達が正常だったとしても、下顎の成長が未熟であった場合、出っ歯になります。重度の出っ歯の場合は、上の歯を後ろに平行移動させる必要があるので、矯正力の弱いインビザラインでは治療できない可能性が高いです。軽度の場合は、歯科矯正で改善されることもあります。
重度の受け口
受け口とは、出っ歯と反対で下顎が上顎よりも前に出ている状態のことをいいます。専門用語で、下顎前突(かがくぜんとつ)、または反対咬合(はんたいこうごう)と呼びます。
受け口は、上下の顎が本来の位置からずれていることが原因です。下顎の動きが制限されている状態のため、顎の負担が大きくなり、放置すると顎関節症を発症することがあります。出っ歯と同様、重度の受け口の場合は歯科矯正とあわせて顎の骨の手術が必要になるため、インビザラインだけでは改善されません。
過蓋咬合(かがいこうごう)
過蓋咬合とは、奥歯で噛み合わせたときに上の前歯の被さりが大きく、下の歯が見えない状態のことをいい、ディープバイトとも呼ばれます。過蓋咬合は、上顎が極端に大きい、または下顎が小さいことが原因です。
過蓋咬合は顎の負担が大きくなるため、顎関節症のリスクが高く、出っ歯や受け口と同様、顎の骨の手術が必要になるので、インビザラインで治療できないことがほとんどです。骨格に問題がある場合は、歯並びではなく顎の骨の位置を治す必要があります。骨格改善の手術は、形成外科、口腔外科、美容外科で行われます。
ただし、症状の度合いによっては歯科矯正での治療も可能なため、一度歯科医師に相談するとよいでしょう。
インプラントの数が多い
インプラントとは人工歯根のことであり、抜歯などで歯を失った場合に人口の歯で再生するときに用います。歯根部分はチタンなどの金属を使用することが多いですが、最近はセラミック素材を使う治療法もあります。歯科矯正は、歯が埋まっている周りにある歯根膜を収縮させることによって歯を移動させます。
しかし、インプラントには歯根膜がないため、歯科矯正で歯を動かせなくなります。さらに、インプラントは歯肉の中にしっかりと固定されているため、インビザラインなどで力をくわえても動きません。歯を動かしたい位置にインプラントがあると、邪魔になって治療ができなくなります。
インプラントの歯を基準にして歯科矯正を行う場合や歯を動かすときに影響しない位置にインプラントが埋まっている場合は、インビザラインでの治療は可能です。インプラントの数が多い場合は動かせない歯が多くなるため、歯科矯正ができないことが多いでしょう。歯科矯正にあわせて、インプラントを一度抜いて最適な位置に埋め直すこともあります。
抜歯する数が多い
歯を移動させるスペースが少ない場合は、抜歯をします。抜歯する数が多いと、空いたスペースが大きくなり、歯を移動させる距離も長くなります。
インビザラインは外側または内側に歯を移動させることを得意としており、平行移動が難しいため抜歯する数が多い症例には向いていません。
インビザラインで治療できない場合の治療法
インビザラインで治療できない場合は「ワイヤー矯正に変更」「ワイヤー矯正と併用」の2パターンの治療法が挙げられます。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正とは、歯の表面にブラケットと呼ばれる矯正装置をワイヤーに通して、歯に圧力をかける方法です。矯正装置の取り付けや定期的な調整は歯科医師が行うため、インビザラインと違って取り外しはできません。軽度から重度まで幅広い症例に対応しています。
ワイヤーは締め付ける力が強いため、インビザラインよりも強力な力で歯を動かすことができ、治療期間が短いのがメリットです。痛みを感じることもありますが、痛みは数日で軽減されていくことが多いでしょう。金属製の矯正装置を使用するのが一般的ですが、近年では白色や透明のブラケット・ワイヤーを使用する歯科医院もあり、より目立ちにくい治療ができます。
<ワイヤー矯正の種類>
種類 | 特徴 | 費用 |
---|---|---|
表側 | 歯の表側に矯正装置を取り付ける主流な方法です。発音に影響はありませんが、口を閉じたときに唇に厚みが出たり、開けたときに矯正装置が目立つといった、見た目に対するデメリットが大きいのが特徴です。ただし、ほかの治療法に比べて、最も費用が安く、治療期間も短くて済みます。 | 600,000~1,000,000円 |
裏側 | 歯の裏側に矯正装置を取り付ける方法です。正面から見えづらいため、見た目が気になる方におすすめです。歯の裏側に付けるため、舌の動きに制限がかかることがあり、うまく発音できないことがあります。また、表側に比べて、取り付ける際に高度な技術が求められ、施術できる歯科医院が限られており、費用が高いのがデメリットです。歯を内側に引っ張ることが得意なので、出っ歯や受け口の治療に向いています。 | 1,000,000~1,500,000円 |
ハーフリンガル | 上の歯は裏側、下の歯は表側と両方を併用する方法がハーフリンガルです。見えやすい上の歯が裏側なので、目立ちにくい治療で、費用も抑えたいという方におすすめです。上下の歯を裏側にするよりも治療期間が短くなり、話しづらさもありません。 | 700,000~1,300,000円 |
ワイヤー矯正と併用
インビザラインだけではカバーしきれない部分をワイヤー矯正で補うという方法です。ワイヤー矯正である程度歯列を整えたあとに、インビザラインで治療します。
インビザラインは噛み合わせの治療を得意としているので、治療中期〜後期にかけて使用することで完成度がより向上します。インビザラインとの併用によりワイヤーを装着する期間が短くなるため、見た目によるストレスも減ることでしょう。インビザラインの「目立ちにくさ」と、ワイヤー矯正の「強力な調整力」という双方のメリットを活かすことができます。
まとめ
歯を大きく動かす必要がある場合や骨格に問題がある症例は、インビザラインで治療できないことがあります。
しかし、ワイヤー矯正でも裏側に装着する方法や、装置を歯に近い色や透明などにすれば、目立たなくすることは可能です。インビザラインで治療できない症例かどうかわからない場合は、歯科医院を受診して判断してもらいましょう。