インビザライン治療で歯を削る目的は、歯を動かすスペースを作ることです。十分なすき間がない状態で無理に歯を動かすと、出っ歯になる場合や後戻りしやすくなる場合があります。
本記事では、インビザライン治療で歯を削る目的と歯を削るメリット・デメリットについて解説します。
インビザライン治療で歯を削ることがある?
インビザライン治療では、IPR(InterProximal Reduction)とよばれる手法を使用して、歯を削ることがあります。IPRは、ディスキングともよばれ、歯と歯の間を薄く削る治療法で、主に歯並びの調整や適切なスペースを確保するために行われます。
IPRは非常に微細な処置であり、治療中はほとんど痛みを感じません。また、歯の健康に対する影響もほとんどありません。
歯を削る目的
歯を削る主な目的は、歯を動かすためのスペースを作ることです。歯のすき間が不十分な場合、さまざまなリスクが生じるため、矯正治療では、歯を削る・抜歯するなどして歯を動かすスペースを作ります。
歯をきれいに並べるためのスペースを作るため
インビザライン治療で歯を削る行為は、乱ぐい歯や出っ歯などの問題を改善するために行われることが多いです。歯と歯の間に適切なすき間がないままだと、整った歯列を形成することが難しいからです。
IPRは、すき間不足による問題を解消します。歯が適切に並ぶためのスペースが得られることで、より自然で美しい仕上がりとなります。
並んだ歯が動かないようにするため
IPRは、歯間の距離を短くすることで歯が密接して並ぶようにします。治療後の安定性を強化し、矯正した歯が動かないようにする効果があり、結果的に後戻りのリスク低減につながります。
ただし、IPRだけに頼らず、インビザライン治療が完了したあとは、保定もしっかり行うことが大切です。保定とは、矯正治療で動かした歯が後戻りしないよう保定装置を使用して固定することです。
IPRに加え、保定期間もしっかり保定装置を装着することで、矯正した美しい歯並びを長期間維持することができます。
歯の大きさを整えるため
歯の移動だけでは、理想的な歯並びを作ることが困難な場合があります。なぜなら、美しい歯並びは単に整列しただけでは不十分で、同じ種類の歯の大きさが上下左右均等で適切に噛み合う必要があるからです。
歯の形や大きさのバランスを整えるために、歯を削るIPRが行われることがあります。
前歯の突出をおさえるため
乱ぐい歯で歯並びがデコボコしている場合、全体的に歯列を外側に広げることで矯正します。
しかし、インビザライン治療は、基本的に抜歯せずに行うことが多いため、歯列を外側へ拡大すると出っ歯になる可能性があります。そこで、インビザライン治療で歯を削ることで、前歯の突出の抑制が可能となるのです。
ブラックトライアングルを改善するため
歯は根元に向かうほど徐々に狭くなります。矯正治療後、狭くなった部分が歯茎との位置関係で露出することがあり「ブラックトライアングル」の原因になるケースがあります。
ブラックトライアングルとは、歯間部の根元付近に三角形の空洞ができる現象です。見た目に悪影響をおよぼすだけでなく、食べ物が詰まりやすくなるデメリットがあります。
しかし、歯を削ることで歯間の距離を調整し、インビザライン治療によるブラックトライアングルの改善ができます。
歯を削るメリット・デメリット
インビザライン治療で歯を削る最大のメリットは「抜歯をさけられること」です。
しかし、健康な歯を削らなければならないため、抵抗感が強い患者さまも多くいらっしゃいます。以下、インビザライン治療で歯を削るメリットとデメリットを解説します。
メリット
インビザライン治療で歯を削るメリットは、以下のとおりです。
抜歯をさけられる
インビザライン治療における歯を削る最大のメリットは、抜歯をさけられる可能性が高まることです。
虫歯や歯周病のためではなく、矯正治療の一環として健康な歯を抜くことはできる限りさけたいでしょう。IPRは、抜歯の代わりに歯を削ることで、歯を動かすスペースを確保します。
仕上がりがよくなる
歯を削る処置は、抜歯をさけるためだけに実施されるわけではありません。たとえスペースの問題が大きくなくても、歯の幅のバランスを上下左右で整える場合や治療後の歯並びをより美しくする場合にも行われます。
見た目の美しさだけでなく、噛み合わせの改善など、口腔全体の機能面にもよい影響を与えることがあります。
後戻りのリスクが低くなる
IPRによって歯と歯の接触が「点」から「面」へ変化します。歯と歯が広い範囲で密接することで、一つひとつの歯がしっかりと支え合い、お互いの位置を安定させることができるのです。
歯を削って歯間を整えることで、インビザライン治療が終わったあとの後戻り、つまり歯が元の位置に戻ろうとする動きが大幅に抑制されるでしょう。
出っ歯を予防できる
歯列が狭い場合や歯が密集している場合、矯正治療で歯を前方に移動させると出っ歯になるリスクがあります。
しかし、IPRによって適切なスペースを確保することで出っ歯のリスクを予防することが可能です。
ブラックトライアングルが改善する
歯と歯の間に黒っぽく見える三角形のすき間「ブラックトライアングル」は、見た目に影響するだけでなく、食べ物が詰まりやすくなるなどの問題を引き起こす可能性があります。
IPRを行うことで、ブラックトライアングルの改善が期待できるでしょう。
デメリット
インビザライン治療で歯を削るデメリットは、以下のとおりです。
健康な歯を削ることになる
IPRには、健康な歯を削るというデメリットがあります。
しかし、削る量は微量であり、歯へのダメージはほぼありません。両側面で行ったとしても、痛みや知覚過敏が生じることはほとんどないでしょう。また、インビザライン治療で歯を削る処置は、ふだんの生活で削れることがない部位で行うため、IPRによって歯の寿命を縮めるリスクは非常に低いです。
歯を削る際に圧迫感や出血が生じることがある
インビザライン治療で歯を削る処置は、虫歯を削る際の感覚と大きく異なります。麻酔を必要としない施術であり、ほとんどの場合、痛みはありません。
しかし、歯や歯茎の状態によっては、施術中に一時的な痛みを感じることや歯茎から少量の出血が見られることがあります。IPRで痛みや出血が予想される場合は事前に対策します。万が一、処置中に不快な感覚があったら、無理せずに歯科医師にお知らせください。
確保できるスペースには限界がある
IPRは、歯間を微量に削る治療法であるため、確保できるスペースには限界があります。歯の密集状態が強い場合や大幅な歯列の調整が必要な場合では、IPRだけでは十分なスペースを確保することが難しいケースもあるでしょう。
歯を削るだけではインビザライン治療が難しいと判断された場合は、抜歯やほかの矯正治療を検討する可能性があります。
歯を削る量はどれくらい?
インビザライン治療におけるIPRは、歯の最も外側の層のエナメル質を対象に行います。
エナメル質は約1〜2mmの厚みがありますが、IPRで削るのはエナメル質のわずか0.2〜0.3mm程度です。エナメル質の大部分を残すことができるため、処置中に痛みが生じることや処置後に知覚過敏になることはほとんどありません。
IPRは「歯を削る」というより「歯を軽くする」感覚に近いといえるでしょう。
歯を削ってしみるようにならないのか?
歯の内部には神経が存在しています。虫歯治療などで大幅に歯を削ると、神経までの距離が近くなるため痛みやしみる症状が発生しますが、インビザライン治療で歯を削る場合は、エナメル質の表面の一部を削るだけなので、処置中に痛みを感じることはほとんどありません。
ただし、歯を削る際に生じる摩擦熱などにより、まれに歯がしみる「知覚過敏」のような症状が出ることがあります。症状は一時的なものであるため、適切なケアを行えば問題ありません。
また「歯を削ることで知覚過敏になるのではないか」と心配する方もいらっしゃるかもしれませんが、知覚過敏はエナメル質の下の象牙質が露出することで起こる現象です。IPRは、象牙質まで削ることはないので、知覚過敏の心配はありません。
まとめ
インビザライン治療で歯を削る「IPR」は、健康な歯の抜歯をさけられ、矯正後の歯並びをよりきれいなものにします。削る量はわずか0.25mmで、象牙質が露出することもなく、知覚過敏などのリスクはほとんどありません。
健康な歯を削ることに対して抵抗を感じる患者さまも多いと思いますが、抜歯するよりデメリットが少ないです。さらに、矯正治療後の仕上がりがよくなる、後戻りしにくくなるといったメリットもあります。
ただし、IPRの有無は症例によって異なります。インビザライン治療を検討している方は、ご自身の症例で歯を削る必要があるのか事前に歯科医師に確認しましょう。